習近平国家主席(中国共産党新聞)とトランプ大統領(ホワイトハウスX)

トランプが「相互関税」等で始めた貿易戦争は、当初は日本や欧州連合(EU)を含む貿易収支黒字国全般をターゲットとしていたが、9日に発表した対中国を除く90日間の10%関税への猶予措置によって「対中攻勢」中心へと舵が切られた。そしてトランプ政権からは、その後も日々新しい方針変更が発信され株式市場はじめ世界が翻弄されている。

各国への貿易収支等の「結果バランス」要求は降ろされてないが、どうやら迂回貿易で抜け駆け等する事なく「中国兵糧攻め」に協力すれば加点ポイントが与えられ、逆であれば中国と一体と見做され苛烈な報復が待つ仕組みが目論まれているようだ。

半導体、AI関連製品など、次世代技術の分野においても、中国製品への高関税と米企業の中国依存脱却が図られている。米政府の主張は「国家安全保障の脅威」および「不公正な国家補助政策」であり、単なる貿易赤字解消ではない。なお今今は、トランプは対中関税圧力を弱める方向に動いているが、明日になれば又分からない。

米国覇権の構造的限界

そもそも、トランプが貿易戦争を仕掛ける背景には、以下のような内在する構造的課題がある。

恒常的な巨額貿易赤字(2024年、前年比14.0%増の1兆2117億ドル(約185兆円)、対中国2,954億ドルと最大) 製造業の空洞化と国内産業の衰退(同年、製造業のGDP比は10.4%と低水準) ドル覇権維持のコスト増大(同年、財政赤字はGDP比7.1%、債務残高はGDP比130%に到達) 高金利とインフレの同時進行(同年、CPIは前年比4.2%上昇、現在のFRB政策金利4.25~4.50%)

トランプはこうした弱点を補うため、対中輸入制限と国内回帰型の「経済ナショナリズム」を再始動させた。

総じてこれまで米国は、世界覇権を維持するために貿易赤字と軍事費を負担し、足りない分はドル札を刷り捲って埋めて来た。これを永遠に続けて行けばよいと言う論者も一定数居るが、そうすればやがてドルの信認は失われて行く。無理に維持しようとするなら、非常に荒っぽく言えば絶えず世界に紛争を起こし戦争経済を回して行く必要があるだろう。