超伝導を起こすには一般に物質を「冷やす」か「圧力をかける」という2通りの方法が用いられています。
物質を冷やしたり圧力をかけると、物質内部の原子や電子の挙動が変わり、運が良ければ電子が抵抗なく流れる超伝導状態を作れる可能性がありました。
ただ冷やしたり圧力をかけたりする方法はコストがかかるため、現在では複数の素材を組み合わせて原子配列を組み変えて、結果的に超伝導に導けるような手法が主流になっています。
かつての錬金術では異なる金属を組合わせることで金に変えることを目指しましたが、現在では異なる材料を混ぜて超電導体を作ることが目指されているのです。
そういう意味では超伝導体の探索は現在の錬金術と言えるでしょう。
話題になったLK-99も鉛と銅をベースにリン、酸素、硫黄を混ぜあわせ、超伝導体になれるかが検証されました。

ストロンチウム・ルテニウム酸化物はその成功した例の1つであり、柔らかく反応性が高いストロンチウム(原子番号38番)と硬いけど脆く粉末になりやすいルテニウム(原子番号44番)を混ぜることで、超伝導体としての性質を獲得しました。
またこの金属酸化物は高い電気伝導率と高温安定性をあわせ持つことから優れた電極の材料として有望であり、内部電子の動きを解明することが求められていました。
そしてこの物質に対して、先の方法で電子の状態測定を行ったところ「質量がない準粒子が存在する」という奇妙な結果が得られたのです。
実験にたずさわった1人であるフセイン博士は「最初はそれが何なのかまったくわかりませんでした」と述べています。
パインズの悪魔粒子については研究者の誰もが知っていましたが、あくまで理論上の存在に過ぎず、現実的な金属から検出できるとはこのとき誰も考えていませんでした。