これは水を一滴のしずくとして見た場合と、川の流れとして見た場合では同じ水でもまったく振る舞い方が異なるのと似ています。
外部からエネルギーを与えられたときの反応も、単体の電子と固体中の電子では大きく違います。
外部エネルギーに対し固体中の電子たちは新たな電荷や質量を持つ準粒子(プラズモン)を形成し、外部エネルギーや固体の性質に応じた独自の反応を作り出します。
固体中の電子を水面、外部から投じられるエネルギーを石に例えると、新たな準粒子は、水面を伝わる波紋のような存在と言えます。

どんな波紋がうまれるかは、石や水面の状態に応じて多種多様です。
そのため固体中の電子の動きを理解するには、固体中に発生する多様な準粒子たちの性質を理解する必要があるのです。
この事実は固体中の電子たちが「電圧をかければ電子が流れる」といった単純な理解では追いつかない複雑さがあることを示しています。
超伝導のような電子の特殊な挙動を理解するにも、準粒子の理解は重要になるでしょう。
1956年、米国の理論物理学者デヴィッド・パインズは、そんな固体中の電子たちについて奇妙な予測を行います。
通常の電子は電荷や質量を持ちます。
しかしパインズは電子が結合してできた、ある準粒子には、電荷も質量もなく、暗黒物質のように光とも相互作用しない奇妙な性質を持ちえると予測しました。
そしてパインズはこの特殊な準粒子を、特異な電子の運動(DEM:distinct electron motion)に粒子の分類を表す際に使われる接尾辞「on」(ボソン (boson)、フェルミオン (fermion)など)を付けてDEM-on(デーモン:悪魔)と名付けました。
悪魔というとずいぶん厳めしい名前に思えますがパインズはこの名前を彼と同時期に活躍していたジェームズ・クラーク・マクスウェルの「マクスウェルの悪魔」にちなんで名付けたようです。