教皇は貧困層、差別されている人々、刑務所の囚人、多くの大都市のスラム街に住む人々、孤独な老人、仕事のない若者にそのエネルギーを傾注していった。宗教原理主義者や政治ポピュリストはフランシスコ教皇の言動を歓迎しなかったのは当然かもしれない。

フランシスコ教皇は同性愛者やクィア、離婚者した人々に対しても聖体拝領の道を開こうとした。2013年7月、ブラジル訪問から帰国の機内で「教会は同性愛行為を罪とみなしているが、同性愛者を非難したり、疎外したりしてはならない」と述べ、LGBTに対して理解を示している。フランシスコ教皇は教会の重点を道徳説教から癒しと治療へと転換していった。ズーレナ―氏は「教会は税関ではなく野戦病院であるべきだという信念があった。フランシスコ教皇は、行動と言葉で、新たな司牧文化を提唱した」と述べている。

フランシスコ教皇在位12年間で女性聖職者は誕生しなかったが、バチカンの高官ポストに修道女ラファエラ・ペトリーニさんが今年3月から従事している。神父の独身義務については、バチカンで2019年10月開催されてきたアマゾン公会議で、「遠隔地やアマゾン地域のように聖職者不足で教会の儀式が実施できない教会では、司教たちが(相応しい)既婚男性の聖職叙階を認めることを提言する」と、最終文書の中で明記された。ただし、同提言は聖職者の独身制廃止を目指すものではなく、聖職者不足を解消するための現実的な対策の印象は歪めない。

フランシスコ教皇の在位期間における重要な革新は、シノドス主義、すなわち共同体主義の強化だ。「フランシスコにとって、教会のこの『シノドス化』は、第二バチカン公会議の教会のイメージの実現にほかならない」と神学者は語る。世界シノドスはフランシスコ教皇が2021年から2024年にかけて招集し、一般信徒や女性代表らも参加した。

5月に入れば、次期教皇選出を決めるコンクラーベがシスティーナ礼拝堂で挙行されるが、ズ―レナー氏は「コンクラーベは中世の遺物だ。現在カトリック教会で規定されているコンクラーベはもはや時代遅れだ。教会のより大きなシノドス性(協議性)は、教皇選挙の改革を意味する」と主張している。同氏によれば、フランシスコ教皇自身が「教皇職も将来的にはシノドス的に行使されるべきだ」と述べている。それは第1バチカン公会議(1869~1870)で描かれた絶対主義的で君主制的な教皇像からの決別を意味するわけだ。