「根性なしと思われたくない」というプライドから、わざと崖から落ちるなど大怪我をすることで訓練を離脱する者までいた。

約30人の候補生になっても、訓練をやり遂げてレンジャー隊員になれるのは7割程度。大量に脱落者が出て5人ほどしか残らなかった年もあったという。

2021年9月、レンジャー候補生の30代男性隊員が訓練中に重度の熱中症にかかり、死亡した。その後24年8月にも、20代男性の候補生が体調不良を訴え、命を落とした。

今回、レンジャー養成訓練を一時中止して内容を見直す決定がされたことについて、前田さんは妥当な判断だと受け止める。レンジャーの数を増やしたい陸自上層部からは「候補生の○割は卒業させてレンジャー隊員にしてほしい」との意向が示される一方で、助教をはじめ現場の指導官たちは「どの部隊よりも強靭な隊員を育成したい」と“愛の鞭”をエスカレートさせる。その結果、厳しすぎる訓練でもリタイアが許されず、候補生たちが命の危険にさらされる場面を幾度も見てきたからだ。

訓練中に集合に遅れた反省として、顔の下に汗で水たまりができるほど腕立て伏せをさせられることもあった。「いかなる状況でも任務を遂行する精神力を養う」という名目で、訓練を終えて自室に戻ると、ベッドがひっくり返り、ロッカー内の荷物が外に放り出されている“台風”と呼ばれる慣習もあった。

「レンジャー訓練の本来の目的はゲリラコマンドの技術を学ぶことであり、延々と掃除をしたり、部屋荒らしに対処したりすることではない。訓練外での消耗が激しく、結果的に最悪のコンディションで訓練に臨み、パフォーマンスが下がるのは本末転倒ではないでしょうか?」

「基礎訓練中は、訓練後の負担も非常に大きい。消灯時間の23時までに食事、入浴、宿舎の掃除、武器の手入れなどを済ませなければいけないのに、掃除は少しでもミスがあるとやり直しを命じられる。だから『終わらない清掃点検』と呼ばれていたし、とにかく時間をつぶされる。消灯後に布団をかぶってライトで手元を照らしながら、明け方4時ごろまで座学の課題に取り組み、6時に起きて訓練へと向かう生活が続きました」