また、量子ビット同士を直接触れさせなくても、見えない量子の場(真空のゆらぎ)を介して、離れた量子ビット同士を不思議な絆(量子もつれ)で結びつけることもできます。

実際、この研究では、真空中に満ちている見えない量子場(フィールド)を“伝書鳩”として利用しました。

真空とはいえ完全に何もない空っぽではなく、見えないエネルギーの場が広がっています。そこで各量子ビットをこの場と相互作用させると、お互いに直接接触しなくても場を介して情報が行き交います。

まるで2人の人が同じ部屋の壁越しに叩いた振動でコミュニケーションを取るようなものです。一人が壁(=場)をトントン叩けば、離れたもう一人にもその振動(=量子のゆらぎ)が伝わります。

こうして量子ビットたちは真空の場を通じて「会話」し始め、離れた者同士が不思議とリンクした状態(量子もつれ)を作り出すことに成功しました。

言い換えれば、真空という見えないトランポリンの上で跳ね合って、お互いの動きを感じ合うように情報を共有したのです。

これにより、2つの量子ビットにまたがる2量子ビットゲート(量子ビット同士の基本的な演算)を実現できました。

従来なら、こうした「ビットのつながり」は互いに近くに配置するか、通信線を介して結合させる必要がありました。

しかし本研究によると、「超スピードでビットを走らせる+量子場を経由する」という方法だけで、離れたビット同士をもつれさせることができるのです。

しかもそれだけではなく、実際に計算の精度も従来型にひけを取らないレベルに達するというから驚きです。

光速近くで走っているのに、騒音や雑音だらけになってしまうのでは……と思いきや、うまくパラメータを調整すればノイズはかなり抑えられると示唆されています。

これがどれほどすごいかというと、量子コンピューターの発想がまるで「SF映画のワンシーン」みたいに広がることです。