「単細胞生物が、あるとき集まって多細胞になったのではないか?」
そんな説は以前からありましたが、実際にその過渡期を生きている生物を観察するのは困難でした。
私たちが普段目にする細菌も、たいていは単細胞です。
一時的に集まってコロニー(集団)を作ることはあっても、基本的には独立して生きています。
ところが地球上には、まるで「集まることが生存条件」であるかのように振る舞う単細胞の細菌が存在するのです。
それが今回の主役となる「多細胞性磁気走性細菌(MMB)」です。
単細胞から多細胞に進化している真っ最中?
多細胞性磁気走性細菌(MMB)が最初に見つかったのは、1980年代のことです。
米マサチューセッツ州にある塩性湿地で発見され、単細胞の細菌ながら、多細胞のように生きる不思議な習性に専門家らの注目が集まるようになりました。
まずは名前にもある通り、MMBは磁石のような性質を持っており、磁場に沿って移動するのです。
彼らは細胞内に「マグネトソーム」と呼ばれる小さな磁石粒を持ち、地球の磁場を手がかりに移動します。
このことから「磁気走性(magnetotactic)」という名称が付けられました。
これだけでもかなり珍しい特徴ですが、もっと驚くべきなのは、その生き方です。

MMBは常に15〜86個の細胞が集まった球形の”コンソーシアム(集団・組織)”という形で存在しており、単細胞生物なのに単独になると生きられないのです。
もし細胞が一つずつバラバラに引き離されると、すぐに死んでしまうことが実験で示されました。
つまり、最初から「集まっていること」が生存に不可欠な仕組みになっています。
これまで細菌の集団は、必要に応じてバラバラになるものと考えられてきましたが、MMBは違います。