さてこのようなトラブルは日本でも日常茶飯事に近いと思います。中野サンプラザの跡地再開発計画がとん挫したのは皆さんご存じの通り。野村不動産の試算が甘かったものです。新宿京王百貨店跡地再開発の南街区も頓挫しています。既存建物を壊すのは大成建設が契約を取ったのですが、なぜか建てる方の建設会社が決まらず、完成予定日は未定に変わりました。通常、建物を壊した業者は上物の建築工事を取るのが大常識。なぜ大成建設が受けなかったのか、私の想像ですが、カネが合わなかったのでしょう。それも百億円単位かもしれません。
開発工事のコストが異様に膨らんでいる実態に発注側の認識が追い付いていない、これが現状なのです。大型開発案件の場合、当然、収益計算とキャッシュフローを見る必要がありますが、それこそ賃料収入で借入金すら返済できない、という数字が出ているのだと思います。
なぜ建設物価が上がるのでしょうか?これは簡単で、昨今の人件費増と資材価格の増です。ただ、問題は人件費は上がるだけではなく、建設従事者が減少し、専門職の手が全く足りない状態という抜本的問題があります。建設工事は多くの業種を足し合わせるので一つでも欠けると建物は完成しません。(自動車産業で部品が一つなくてもできないのと同じです。)資材価格も輸入品に頼る場合が多く、単に高いだけではなく、モノがないという場合もしばしば発生します。(かつて便器の供給国、ベトナムから便器が入らなくなった事態がありましたね。)
ではこれがなぜタイトルの「思わぬ弊害」につながるのでしょうか?私が心配しているのは古いマンションの大規模改修ができなくなるだろうという点です。現在の修繕積立金では改修に必要な資金が不十分となるケースが続出し、古いマンションの維持管理ができなくなる大騒動がいずれ起きるとみています。
北米なら「しょうがないな、では特別拠出金を建物所有者から集めるか」という決議をして各部屋のオーナーさんに「はい、お1人200万円ね」と請求を出せばよいだけです。「おれ、カネがない」といえば「あっ、そう。ならばお部屋の所有権に先取特権をつけます」で終わり。こちらは部屋の売買が日常茶飯事。そして先取特権は簡素化されたプロセスで一種の抵当権を付保してその不動産売買の代金から優先的に返済してもらう仕組みがあるのです。こちらの人はそれを知っているのでやむを得ず払うのです。

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