この顕微鏡では、一本のニューロンの枝先から根元まで、どのシナプスがいつ働き、細胞全体がいつ“イエス!”と反応したのかを観察できるようになっています。

すると驚くべきことに、頂上付近の細い枝では「近くにあるシナプス同士が一斉に活動すれば強化される」という、“ご近所同士の結束”がカギでした。

一方、根元近くの太い枝では「ニューロン全体が発火した瞬間に活動していたシナプスだけが強くなる」という、“成功シグナルとの一致”が決定打になります。

つまり、同じニューロンでも、枝の先と根元ではまるで別世界――協調重視型と自己評価重視型という二通りの学習ルールが棲み分けられていたのです。

私たちはこれまで一本のニューロンが従う学習ルールはシナプスを繋ぐか繋がないかといった1種類のものだと考えがちでした。

しかし新たな結果は、「1本の樹のように枝を伸ばした1個のニューロン」でさえ、場所によって学習ルールがまったく異なることを示していました。

この発見は世界で初めて、一本のニューロンが“営業部”と“経理部”さながらの役割分担をして、それぞれ独自のルールブックで学習している瞬間がリアルタイムでとらえられたというわけです。

「1細胞多ルール」がAIのニューラルネットも進化させる

「1細胞多ルール」がAIのニューラルネットも進化させる
「1細胞多ルール」がAIのニューラルネットも進化させる / Credit:Canva

今回の発見が示す最大のメッセージは、私たちが「脳は単純なルールだけで学ぶ」と思い込んでいたのが、必ずしも正しくなかったということです。

一本のニューロンの中でも、先端の“営業部”ではチームワーク重視、根元の“経理部”では発火タイミングを厳格に評価する――こうした部門制企業のような構造があり、それが脳の学習を支えているのではないかという新しい視点が生まれました。

さらに重要なのは、この仕組みが長年の謎だった「クレジット割り当て問題」を上手に処理している可能性がある点です。