まるでホラー映画の一場面のような、人間が前触れもなく突然炎に包まれるという「人体自然発火現象(Spontaneous Human Combustion, SHC)」。世界各地で報告されるこの奇妙な現象は、果たして本当に起こり得るのだろうか?

 1731年、イタリアの伯爵夫人コルネリア・バンディの謎めいた死について、英国王立協会の会員ポール・ロッリは「ベッドから4フィートの場所に灰の山があり、膝から下の脚が2本、靴下を履いたまま残っていた」と記録している。状況証拠が乏しい中、ロッリが下した診断は「人体自然発火現象」。これが科学文献における最初の事例とされる。

 以来、多くの研究者がこの現象を調査してきたが、現在では疑似科学と見なされることが多い。多くの場合、より現実的で、しかし同様に悲劇的な死因が証拠から推測できるのだ。ここでは歴史に残る人体自然発火現象とされるいくつかの有名な事例を見ていこう。

灰と化しても足首は無傷? 人体自然発火現象とされる奇妙な現場

 人体自然発火現象とされる事例で共通して報告されるのは、極度の燃焼と、なぜか燃え残る身体の一部だ。

 1980年、南ウェールズに住む73歳のヘンリー・トーマスは、自宅の椅子に座ったまま、上半身から発火し焼死したと見られている。遺体の損傷は激しく、残っていたのは膝から下の両脚と頭蓋骨だけだった。奇妙なことに足はまったく燃えておらず、靴下とズボンもほとんど無傷だったという。暖炉に火はあったものの、そこから燃え移った形跡はなかった。

 一説には暖炉の火かき中に髪の毛に火がつき、それに気づかず椅子に座ったのでは?とも言われたが、果たして自分の髪が燃えているのに気づかず座り続けるだろうか? 最終的に、彼の死因は「焼死」とされたが、人体自然発火現象への言及はなかった。

 1951年、フロリダ州のメアリー・リーサーも同様の状況で発見された。アパートのドアノブが異常に熱いのを不審に思った家主が警察に通報。駆けつけた警官が見たのは、椅子に座ったまま灰と化したリーサーの姿だった。残っていたのは、スリッパを履いたままの左足の一部と、ティーカップサイズに縮んだとされる頭蓋骨。FBIは、彼女が常用していた睡眠薬を服用後、タバコの火が燃え移った事故だと結論づけた。

 しかし、ある大学教授は、何者かに殺害され、火葬場で焼かれた遺体が現場に戻されたという殺人説を唱えている。真相は藪の中だ。

 1966年、ペンシルベニア州のジョン・アーヴィング・ベントレー医師も、自宅の床に焼け跡を残し、右脚以外は灰となって発見された。当初はパイプの火の不始末が疑われたが、パイプは無傷でベッド脇にあった。調査官は、彼がパイプの灰をローブに落とし、消火しようとバスルームに向かった際に、ローブのポケットのマッチに引火し火勢が増した、と推測している。

燃え上がる人体……謎に包まれた「人体自然発火現象」の衝撃実例
(画像=イメージ画像 generated using QWEN CHAT,『TOCANA』より 引用)