逆に貧困や家庭内暴力といった“荒れた路面”では、ハンドル操作を誤ればたちまちスリップして犯罪に突っ込む恐れがあります。

これまでの研究でも、一部の報告では企業経営者や外科医にサイコパス的傾向が高い「成功型サイコパス」が目立つとの指摘がある一方、刑務所内ではサイコパス特性スコアが一般の数倍に達するというデータも多く蓄積されています。

ただし、こうした先行研究はサンプルの取り方や評価法が異なるため、必ずしもすべての経営者や外科医が高いサイコパス傾向を持つわけではありません。

また、その間を分ける“環境のスイートスポット”を長期的に追いかけた調査は意外と少なく、特に若者が大人になる過程で何が鍵になるのかは手探り状態でした。

そこで今回研究者たちは、同じサイコパス特性を持つ若者でも「犯罪へハンドルを切る人」と「平和に走り抜ける人」を分ける環境要因を、大人数を長期間追跡して具体的に特定することにしました。

サイコパスの中には平和に生きている人たちもいる

サイコパスの中には平和に生きている人たちもいる
サイコパスの中には平和に生きている人たちもいる / Credit:Canva

研究チームは、アムステルダムに住む18〜21歳の若者1,200人を2010年から最大2017年まで追跡し、サイコパス特性と犯罪行動の関係を詳しく調べました。

このサンプルには、過去に警察との接触があった若者が意図的に多めに含まれており、多様な背景の若者を評価できるよう工夫されています。

参加者は毎年アンケートに回答し、〈エゴ中心性・冷酷さ・反社会性〉の三つの因子から成るレーベンソン自己報告サイコパス尺度で性格特性を測定しました。

同時に、親の学歴と職業から推定した世帯の社会経済的地位、親が子どもの居場所や交友関係をどれだけ把握しているかを示す「親のモニタリング」、片親世帯かどうか、虐待や家庭内暴力など逆境的幼少期体験の有無、親子関係の質、近隣の治安や貧困度という六つの環境要因を記録しました。