しかし、近年ではJリーグでも地殻変動が起き、欧州のトレンドを取り入れる動きが加速している。2024シーズンのヴィッセル神戸は、前年からセットプレーからの得点を倍増(13得点から25得点)させ、リーグ連覇を達成した。また、昨2024シーズン、J1昇格初年度ながら町田ゼルビアも旋風を巻き起こした。

町田では、黒田剛監督を筆頭に、昨2024シーズンであれば金明輝ヘッドコーチ(現アビスパ福岡監督)が、今2025シーズンは有馬賢二ヘッドコーチらがセットプレーにこだわりを持ち、他クラブのサポーターから賛否両論を浴びながらもセットプレーから多くの得点を記録してきた。

練習場である三輪緑山ベースに来場するファンに対し、公開練習であっても練習風景の撮影(動画・静止画問わず)や、紅白戦のメンバーや内容に関するSNS投稿を禁止している町田だが、それでも昨季終盤には他クラブから対策され、今季は逆にセットプレーでの失点も目立つ。

そこで“マイナーチェンジ”を施した町田は、全体の走力を保ちながらも、新加入選手の「個」を生かした得点も多くなっている。セットプレーと流れからの得点双方を生かし、つかみどころのないチームに変貌しつつあるのだ。

こうした成功例を踏まえ、Jリーグでもセットプレー専門コーチがスタンダードとなるかは、そこにリソースを割けるか否かが鍵を握っている。「人件費が足りないから難しい」では、時流に置いていかれることになるのは必至だろう。

これまでの日本サッカーは、その流動性やパスワークが美学とされてきた部分があるが、セットプレーでも美しいパス回しの末で取った得点も「1点」であることには変わりない。欧州の結果至上主義の影響でセットプレー重視の意識が高まりつつある中で、海外で学び、セットプレーに精通したコーチが増えれば、導入が加速する可能性もある。さらに、セットプレーの成功率や分析をデータで可視化する文化が広がれば、専門コーチの価値が認知されるだろう。