磁石の内部は無数のミニ磁石が一定方向に向かって並んでおり、今ある端は特別なものではなく、たまたま端になっただけに過ぎないからです。

ですが量子の世界には、N極やS極のように1つの極だけを持つ、単極磁石(モノポール)と呼ばれる物体が存在することが判っています。

米国のアマースト大学では以前から単極磁石の研究を行っており、2015年に『Science』に掲載された研究では、絶対零度に冷却したルビジウム原子のガスを磁力で操作することで、磁力の流れに特異点を生成し、量子レベル(極小サイズ)の単極磁石を作ることに成功しています。

特異点とは現行の物理理論が破綻している場所を指します。

磁気の流れの中に特異点がうまれると、単極磁石(モノポール)が生成されることがある
磁気の流れの中に特異点がうまれると、単極磁石(モノポール)が生成されることがある / Credit:トポロジカル欠陥と生命現象

こうした「特異点」としてもっとも有名なのはブラックホール内部ですが、今回の特異点は、上の図のように、磁力線の流れにある種の収束が生じる黒い点の部分を示します。

他の部分では磁力の方向を線(ベクトル)で表現できますが、黒い点の部分では磁力はどの方向も向けずに、特異な点として存在します。

そして特異点が発生した場所では、磁場が数学的に説明できない挙動に陥り、特定の条件で不思議な単極磁石としての性質を獲得するのです。

今回の研究では、この単極磁石がその後どんな運命を辿るかを調べることから始まりました。

ただ単極磁石は極めて不安定な存在であり、わずか数ミリ秒ほどで崩壊してしまうため、調査に当たっては高精度のカメラが準備されました。

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Credit:Alina Blinova et al . Observation of an Alice ring in a Bose–Einstein condensate . Nature Communications (2023)

結果、単極磁石が崩壊するにつれて、上の図のような、リング状の構造が出現することが判明します。