その時代、戦後日本の社会科学を席巻した「マルクス主義」が社会学界でもまだ健在であり、そのパラダイムでは「社会システム」というより「社会体制」を好み、「社会変動」ではなく「社会革命」を使い続けていた。

テキスト用としてこの立場まで配慮すると、分量は2倍に増えるし、準備にもかなり時間がかかる。だから、マルクス主義の「社会変革論」を省略して、新しい「社会システム」論をベースにした「社会変動」に限定してもいいのならばお引き受けすると回答したら、結果的にはその通りになった。

横飛教授はまことに寛容であったが、この縁がなければ社会システム、構造機能主義、システム変動、イノベーション、社会発展と社会成長、そして高田保馬の社会学的史観などへの関心は芽生えなかったはずである。さらに、当時すでに話題になっていたベルの『脱工業社会』論や村上の『産業社会の病理』にまで手を伸ばすこともなかった。

その意味で、テキスト用の「社会変動」への取り組みは、10年後に長谷川公一との共著で誕生する『マクロ社会学』の出発点ともなった。これもまた運であり縁である。

社会システム論での「社会変動」の一般化

以上のような問題意識で書いた『現代社会学の視点』の「社会変動」を改訂して、本書ではもっと一般化してみた。

産業化や人口増減に伴う資源配分構造の変化 社会システムの機能要件の不充足 社会システム成員の欲求充足水準の実質的低下 成員間における相対的剥奪感による社会的不満の高まり 社会的緊張の増大 逸脱的行動の普遍化と増加 社会システムの変容を求める集合行動の発生 資源配分基準の変化と便益システムの変動 規範と価値の両システムの変動と変更された資源配分基準の正当化 新しい社会システム構造の成立と安定

というようなまとめを行ったのである(金子、1984:33-34)。この期間、社会システム論の理解が深まったように思われる。

価値論への関心