注目すべきは、デジタル機器の使用が「受動的」である場合(例:動画視聴だけ)は効果が薄く、「能動的」に使っている場合(例:メール作成、SNSでの交流、地図アプリの活用など)により強い効果が見られたことでした。

では、なぜデジタル機器の使用は高齢者の認知機能の低下を予防できるのでしょうか?

なぜ認知機能の低下が防がれたのか?

研究チームは、デジタル機器の使用による「脳の退化」ではなく、「脳の活性化」の側面に注目しました。

というのもスマホやタブレット、パソコンの操作は、ある程度の学習と注意、そして記憶力を必要とする行為です。

そのため、高齢になってから触れるテクノロジーは、彼らにとってチャレンジングであり、自然な脳のトレーニングになっている可能性があります。

研究主任で認知神経科学者のマイケル・スカリン(Michael Scullin)氏はこう話します。

「中高年の方々の多くが『このパソコンには本当にイライラする。覚えるのが大変だ』との思いを抱いていますが、それはまさに認知的な負荷を感じている証拠であり、たとえ楽しく感じなくても、脳には良い刺激となっている可能性があるのです。

加えて、テクノロジーは、たとえば定期的に新しいソフトウェアのアップデートを要求したり、インターネットの接続不良を解決したり、ウェブサイトの広告をスルーしたりといった『絶え間ない適応』を求めてきます。

こうしたタスクが、問題解決能力や情報処理、記憶の活用といった脳の多様な機能を刺激すると考えられるのです」

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Credit: canva

スカリン氏は、テクノロジーの負の側面(たとえば、運転中の注意散漫や対面コミュニケーションの減少)を認識しつつも、高齢者におけるデジタルツールの健全な活用は認知的な健康にとって有益であると強調します。

「もしあなたの親や祖父母がテクノロジーを避けているのなら、その考えを見直してみてください。