こうした姿勢は、オンライン討論だけでなく、職場や学校など日常的な場面でも建設的なコミュニケーションを促進する要素となるでしょう。
ただし、この研究にはいくつかの限界も指摘されています。たとえば、参加者自身の自覚や記憶に依存するアンケート調査であるため、実際の書き込みやコメント履歴を全て確認したわけではないこと、そしてデータの収集地域や文化的背景が特定の国(今回の場合は韓国)に限られていることなどです。
国や文化が異なる環境では、同じようなパターンが見られるかどうかはまだ十分に検証されていません。
それでも、「オンライン討論がかえって感情的な対立を強める」メカニズムの一端が、こうした“過度な自信”によって引き起こされる可能性を具体的なデータで示した点は、非常に興味深いといえます。
今後は、たとえばSNSのインターフェースに“ファクトチェックを促す機能”や“意見を発信する前に自分の知識を再確認できる仕組み”を導入するなど、情報環境側の工夫も議論されるかもしれません。
あるいは学校教育やメディアリテラシーの観点から、自分の知識を客観視し、誤りを認める力を育むプログラムを充実させることが、社会的な分断を和らげる手段の一つとして期待されます。
政治的対立が激化しがちな今の時代だからこそ、自分の“知識の鏡”をときどき拭いてみる姿勢が、健全な議論と穏やかな共存への糸口になるのかもしれません。
全ての画像を見る
元論文
How Political Overconfidence Fuels Affective Polarization in Cross-cutting Discussions
https://doi.org/10.1177/00936502241301174
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。