もし宇宙のどこかで、この理論通りに連星系の小さな星をまるごと包み込むダイソン球やリングが形成されているとしたら――それはSFの世界が現実に姿を見せる瞬間かもしれません。

しかも、こうした超巨大構造は恒星の光を内側で受け止めてしまうため、遠くから見れば普通の恒星とは違う独特の放射スペクトルを示すはずです。

いわゆるSETI(地球外知的生命体探査)における“テクノシグネチャー”の候補として、連星系の特異な赤外線放射源が見つかれば「そこにメガストラクチャーがあるのでは?」と推測できる可能性もあるでしょう。

もっとも、実際にダイソン球やリングワールドを建造するとなると途方もない素材や工学技術が必要になることは間違いありません。

薄い膜のような構造で恒星スケールを支えられるのか、放射圧にどう耐えるのか、回転や重力のばらつきをどのように補正するのか――現代の工学レベルでは到底クリアできない課題が山積みです。

しかしながら、理論的に「壊れない場所」が存在しうるとわかっただけでも、未来のテクノロジーを夢見るうえでは大きな一歩と言えます。

さらに「二体問題から三体問題へ」という発想の展開は、宇宙観測にも役立つ可能性があります。

単純な星系モデルでは説明できない“奇妙な構造”や“歪んだ光度曲線”を捉えたときに、「あ、もしかしたらもう一つ重力源があるせいでこんなバランスになっているのかも」と考えられるかもしれません。

そうした理論をさらに発展させれば、巨大構造だけでなく、たとえば複数の天体が相互作用し合う惑星系の謎を解く手がかりにもなるでしょう。

結局のところ、今回の研究で描かれた安定領域は“理想的な制限三体問題”に基づくもので、実際の宇宙はもっと多くの要素が絡み合っています。

それでも、「二体だけで考えていたときには見えなかった可能性が、もう一つの星を加えるだけで開ける」という発想は、多体系に満ちた宇宙を理解するうえで重要な示唆を与えているのです。