ところが二つの星がちょうどいい位置関係で引っ張り合っていると、リングや球殻が引かれる向きが多方向から微妙に均衡するため、まるで“ぐらぐらだけど倒れない”シーソーの真ん中に乗っているような状態が生まれるわけです。

研究チームはこの均衡点を時間をかけてシミュレーションし、ほんの少し揺らしてみても大崩壊せずに安定するパターンが存在するのを確認しました。

特に印象的なのは、「小さいほうの星を取り囲むようにリングや球殻を配置すると、意外にも長い間崩れずに維持できる」という発見です。

通常の二体問題では「中心が恒星なら、そこから外れた瞬間に終わり」という話だったのに、連星系の場合は「小さな星を取り囲む」ことで、全体の重力のバランスがうまくいく可能性があるのです。

ただし、これは一定の質量比やリング・シェル半径など、パラメータが限られる上での結果であることも同時に示されています。

いわば、片側だけの綱引きではすぐに引きずられてしまうところを、もう片方の星も加わることで複数方向から引っ張られ、かえって“どっちにも行けない安定域”に落ち着く――そんなイメージです。

もちろん、この結果だけで「ダイソン球が当たり前のように存在するはずだ!」というわけではありません。

「恒星を覆う構造は不安定だ」という従来の常識に対して、“連星系という舞台ならそうとも限らない”という可能性を提示した点は大きいでしょう。

メガストラクチャーを支える「ダイソン球理論」

ダイソン球を理論的に安定化させる方法を発見
ダイソン球を理論的に安定化させる方法を発見 / Credit:Canva

今回の研究により、“恒星と環(あるいは球殻)”という二体だけで考えれば不安定とされてきた巨大構造も、制限三体問題の枠組みに置いてみると安定しうる場合があることが示されました。

言い換えれば、マクスウェル以来「土星の環は剛体であってはならない」「ダイソン球も中心とずれれば崩壊する」などと考えられてきた常識に対し、「もう一つの星(あるいは惑星)という重力源が存在することで、意外な“落ち着きどころ”が生まれるかもしれない」という新しい視点を投げかけているわけです。