エマ・ウェッジウッドはダーウィンの母方の従姉妹であり、彼らの間には10人の子どもが生まれました。しかし、そのうち3人は若くして亡くなり、他にも体の弱い子どもが何人かいたと言われています。

当時の英国上流階級では、いとこ婚は珍しくありませんでしたが、ダーウィンはこれを単なる偶然とは思わず、「もしかして、血縁が近いことが原因ではないか」と強い懸念を抱きました。
なぜなら、進化を“自然淘汰”の視点で考えた場合、「近親交配は進化に不利だから、自然選択によって避けられるような仕組みが発達してきたのではないか?」と予想されるからです。
そこでダーウィンは植物を使って、自家受粉(近親交配)と他家受粉(遺伝的に異なる個体同士の交配)を比較する実験を行いました。
そして、自家受粉によって子孫の生育が悪くなる傾向があることを発見するのです。
その後、20世紀に入って遺伝学が飛躍的に発展し、メンデルの法則が再評価されることで、近親交配のリスクがより明確にされていきます。
さらに1930年代には、J.B.S.ホールデンやセーウェル・ライト、ロナルド・フィッシャーといった研究者たちによって「集団遺伝学」が誕生します。
こうして、遺伝子の多様性や集団内での遺伝子の頻度変化を数学的に扱うことができるようになり、「創始者(種の最初の個体)がごく少数であれば、遺伝的多様性が失われ、種としての健全性を保てなくなる」ということが理論的に示されました。
これはまさに、「アダムとイヴ的な出発点」では長期的に繁栄することは難しい、という科学的な根拠に他なりません。
最初の生命はどうやって始まったのか?
現代の生物学では、遺伝的多様性こそが種の繁栄に欠かせない鍵だとされています。
遺伝的に近い個体同士での交配が続くと、劣性遺伝子(潜性遺伝子)による病気や発育不良が表に出やすくなり、集団全体の健康が損なわれていきます。