私たちが気づかぬうちに、自らの「鍵」を差し出しているかもしれない。指紋、顔、虹彩。これら生体情報は、かつてないほど重宝されている。だがその一方で、これらの情報を提出することが、単なる利便性の追求にとどまらず、危険な未来への扉を開いているとしたらどうだろうか。

データという“新たな通貨”の時代

「お金がすべて」と言われた時代は過去の話だ。今や、最も価値のある資産は「個人情報」、特に「生体データ」かもしれない。これはパスワードや暗証番号とは違い、一度提出すれば取り消すことができない“永久的な鍵”だ。

 銀行、政府、企業が提供する利便性の裏には、この“鍵”を管理するシステムがある。しかし、これらのデータベースは決して万全ではない。近年、世界各地で個人情報や生体データが流出する事件が頻発している。だがそのたびに責任者が追及されることは少なく、「技術的な不具合」「不運な出来事」として片付けられてきた。

 だがそれは果たして“事故”なのだろうか。多くの専門家は、生体データの流出が個人のプライバシーだけでなく、資産や身分のなりすまし、さらには社会全体へのコントロールに繋がる重大な脅威であると警告している。