今回の騒ぎの中で、中国が国債をかなり売り始めているという指摘がなされている。米国10年債金利は、トランプ政権成立後に、4.8%台から一時は3.89%まで低下する流れを見せていた。ところが、現在の混乱の中で10年債金利が再度上昇し、4.45%をつけた。

アメリカの財政赤字は、累積で2024年度に35兆ドルで、対GDP比で124%の水準に達している。日本が対GDP比で257.2%の累積債務を抱えている状況よりもまだマシだが、日本が世界最悪水準なので、アメリカの状況が楽観視できることの理由にはならない。日本の債務残高は、1,105兆円で、絶対額で見れば、アメリカの5分の1程度である。

トランプ政権が、追加高率関税を延期する措置をとったのは、10月9日の日本時間の昼頃から米10年債の利回りが急騰したためで、その原因は、日本の農林中央金庫による売却が原因だという見方が広まっている。アメリカのアキレス腱が露呈した形だ。日本人の私から見ると、今は米国国債の話は、極めて繊細な事項だ、うかつな動きは禁物だ、という気がしてならない。

トランプ政権の評判は、日本国内でも非常に悪い。しかし日本の唯一の同盟国である。空前の規模の貿易赤字のみならず、巨額の財政赤字を抱え込んで、非常に苦しい立場にあることも、客観的な事実だ。アメリカが倒れてしまったら、結局は日本も大変な事態に見舞われることになる。最大債権国の立場は、交渉の際のカードに使うことはあっても、本気でアメリカの損失になるように使うべきではないだろう。

世界情勢の長期的な趨勢としては、アメリカの一極突出を前提にした「グローバルな」仕組みは、国際安全保障面だけではなく、国際経済制度の面でも、勢いを失っていく流れが顕著だ。トランプ大統領がその原因であるかのように語る風潮があるが、これは二カ月前に始まったことではない。トランプ政権の誕生は、原因と言うよりは、結果に近いものだと言うべきだろう。