これは、インターネット越しに「針をもう少し右へ」「卵子をゆっくり固定して」といった指令を一瞬の遅延もほとんどなく届けられることを意味します。

まるで遠隔地にある精密な“分身ロボット”を操縦しているようなイメージです。

高速で安定したインターネット回線が前提になりますが、こうした通信インフラさえ確立されれば、熟練技術者が不足している地域や遠隔地であっても、トップレベルの顕微授精が実現できるかもしれません。 

このように、「いつでも、どこでも、一流の顕微授精を行えるかもしれない」という未来を感じさせる一方で、まだ残る課題も明らかになりました。

自動操作はどうしても安全策を重視するあまり、手動より時間がかかる傾向があります。

通常の顕微授精なら1分ほどで終わる工程が、機械を介すると10分近く要する場面がありました。

しかし、これは自動運転車が開発初期にスピードを控えめにして安全性を確保していたのと同じで、システムが成熟すればもっと短縮できる可能性は十分にあります。

現に人工知能分野では、学習データが増えるにしたがって作業効率や精度が飛躍的に向上する例が多々報告されています。

顕微授精でも同じように、大規模な臨床データを取り込みながら段階的に改良を進めていくことで、人間の職人技を上回る精度と速度の両立が視野に入ってくるでしょう。 

倫理面での懸念も無視できません。

胚は将来の子どもになる存在であるため、ミスや想定外の事態があってはならない、という強い責任が伴います。

今後、人工知能による自動操作がどこまで信用できるのか、人間による最終チェックや緊急時の介入はどの程度必要なのかなど、慎重な検討が求められるでしょう。

医療行為としての安全基準や規制も、国や地域によって異なる可能性があります。

ただ、その難しい課題をクリアした先に、多くの患者さんが「距離や技術者不足」の壁を越えて高度な不妊治療を受けられる未来が待っているかもしれません。