いずれにせよ、右派、および保守が狙われているのはドイツだけではない。そういえば、昨年のルーマニアの選挙では、保守で親ロシアの候補者が大統領になりそうになったため、EUが不正選挙だとして介入し、同国の裁判所により候補者が排除された事件があった。だから、今、ドイツの保守の人々の間では、「次の標的はAfDのヴァイデル党首か」という懸念の声が高くなっている。

しかし、ドイツの主要メディアは、メルツの公約違反を受け流したのと同じく、ル・ペン氏の件も、ルーマニアの件も、サラリと報道したのみだ。それどころか、CDU/CSUと社民党は、今後、民主主義を守るために「嘘」、「憎悪」、「扇動」などを犯罪として取り締まるつもりだという。

しかも、SNS上でそれらをいち早く発見するため、民間の組織、およびNGOにその監視をさせる。司法に任せていては時間がかかり過ぎるからだそうだ。

しかし、民間の組織、ましてやNGOに、「嘘」を発見し、警告する権限を与えるなど、はっきり言ってあり得ない。内務省に管理されたそれらの民間組織が、さまざまな官庁から供与された補助金という名の国民の税金を使って、ネット上で国民の口を封じたり、あるいは、政府の政敵を潰すためのデモを組織したりするわけだ。全て民主主義を守るためという名目で。旧東ドイツの諜報機関は、教会関係者や、慈善組織や、野党の政治家や、教育者を装っていたが、現在のいくつかのNGOもこれと似たようなものではないか。

このドイツの言論にとっての危機的状況を、前述の「Die Weltwoche」がうまく表現していた。

(ドイツの)次期連立政権は嘘とフェイクニュースを禁じる。かつては、これを異端裁判と呼んだ。

真実が1つしか無いのは全体主義の国の特徴だ。「他に選択肢がない」が口癖だったメルケル氏の時代に始まった言論統制が、今、新しい段階に突入しようとしている。しかし、私たちは決して、民主主義を守るなどという言葉に騙されてはいけない。