ところが、シュピーゲル誌は「良いタイミングで勇気ある行動」、南ドイツ新聞は「正しいことをやり通した」と、メルツ氏を非難どころか。誉めあげていた。なぜ、これほどの差が出るのか?

昨年、実施された調査によると、ドイツの主要メディアのジャーナリストの約4分の3が左派だそうだ。一番多いのが緑の党のシンパで53%、次が社民党で21%。これが正しいとすれば、彼らが社民党の政策に忠実に従うメルツ党首を誉めたのは、不思議でも何でもなかった。ただ、一般の世論調査では、回答者の73%が「メルツは有権者を騙した」と答えていたから、メディアの報道は国民感情とは完全に乖離していたわけだ。

4月9日、難航していた連立交渉がついに終わり、CDU/CSUと社民党の代表が144ページにわたる協定書を、記者団の前で発表した。タイトルは「ドイツのための責任」。まだ詳細はわからないが、ちょっと片腹痛い。しかも、たった16%の得票率だった社民党が17の省のうち、7省も取るらしい。

そうするうちに、まさに同日、Ipsosのアンケートで、AfDの支持率がCDU/CSUを追い越して、1位となった。新政府は5月末に発足の予定というが、大火事になっているのは防火壁のこちら側の新政府の方だ。

ただ、AfDがこれ以上強くなると困るのは社民党も緑の党も同じなので、現在、あらゆる手段でAfDを潰す試みが、超党派でなされている。

一方、フランスでは3月31日、次期大統領の最有力候補だったマリーヌ・ル・ペン氏(RN・国民連合)が、公金不正使用で有罪判決を受け、次期大統領選の出馬を阻まれた。

検察は「仮執行」という措置を要請しており、ル・ペン氏は控訴しても、被選挙権は停止されたままとなる。被選挙権が復活するのは、選挙期日以前に控訴審の判決が出て、正式に無実となった場合に限るという。ただ、その確率はかなり低いらしく、そうなると、つまり、27年の大統領選には出られず、今回が最後の大統領選と言っていたル・ペン氏は、実質、政治生命を断たれることになる。