違法取材を認め、和解が成立
今年1月22日、英大衆紙サンなどを発行するニューズ・グループ・ニューズペーパーズ(NGN)社は英チャールズ国王の次男ヘンリー王子と元労働党下院議員トム・ワトソン氏に対し、電話盗聴などの違法な取材行為とプライバシー侵害があったことを謝罪した。

ヘンリー王子インスタグラムより
王子とワトソン氏は違法取材によって被害を受けたとしてNGNに損害賠償を求めていたが、審理が始まる直前になって両社は和解に至り、NGNは王子らへの「実質的損害賠償金」の支払いに合意した。原告側の弁護士は和解を「画期的な勝利」と評した。
過去十数年にわたって継続してきた、王子らによる複数の大衆紙での報道に対する一連の法廷闘争はひとまずの決着を見た。
大衆紙に立ち向かった、孤高のドン・キホーテ
英国の大衆紙は著名人の私生活暴露を「売り」の一つとしながら、部数を増やしてきた。国民の愛着と羨望の的となる英王室一家も過熱取材やゴシップ記事の対象となってきたが、王家のメンバーが提訴によって報道の責任を問う例は稀だ。報道の自由への干渉という批判を受ける可能性があると同時に裁判の審理過程で私的な事情をさらに公開せざるを得なくなる場合もあるからだ。また、大衆紙報道には事実の誇張や捏造に近い情報も含まれるため、まともに反論・反撃しても無駄という見方が根強い。
大衆紙の発行元相手に提訴したヘンリー王子は、嵐に立ち向かう孤高のドン・キホーテ的存在だった。法廷闘争の経緯を振り返りたい。
電話盗聴事件から大衆紙廃刊へ
2005年秋、ヘンリー王子の兄にあたるウィリアム王子(現皇太子)の膝のけがに関する記事がニューズ・インターナショナル(NI)社(現ニューズUK)が発行していた日曜大衆紙ニューズ・オブ・ザ・ワールド(NOW)に掲載された。ニューズUKはNGNの親会社である。
ごく限られた数の人間だけが知り得る情報がなぜ報道されたのか。王子の側近がロンドン警視庁に連絡を取り、携帯電話への不正アクセスがなかったかどうかの調査を依頼した。NOW紙の王室報道担当記者と私立探偵が不正アクセスで有罪となり、実刑判決が下った。当時の編集長は違法行為については知らなかったと言いつつも、引責辞任した。