TPP騒動の時に、カリフォルニアの農家を調査した論文がある。そこでの結論も、たとえ日本がコメ市場を開放した所で、アメリカから日本向けの輸出は増えないということだ。日本にコメを売る努力をするより、ミニマムアクセス制度のもとで確実に一定量を日本政府が買ってくれる方が、アメリカにとっても次ごうがいい、ということである。
1990年代以降の米国カリフォルニア州の稲作の変化
今の制度では、ミニマムアクセス分は無税だが確実に日本がアメリカから輸入することになっている。ミニマムアクセス分を越えれば法外な関税がかかるが、実際には無税でも売れないから、昨年のような状態にならない限り輸入量はミニマムアクセス分を越えていなかったのだ。
TPP日米コメ交渉は国益につながらない-コメの関税維持のため、関税ゼロの輸入枠を設定すれば消費者負担が増加-
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以上のような農業現場の実態をふまえたまともな議論は、ほとんど世間で聞かれることはない。私はずっと、コメの国境措置は撤廃すべきだと主張してきた。それは撤廃しても農業に大きな変化が起こらないから、という理由からだ。自民党はそのことがわかっているかどうかは別にして、「農業を保護している」というポーズを取ることで、農村票を失わないために今の制度を維持しようとする。
これはTPP騒動の時も同じである。実際にTPPが発効しても日本の農業にほとんど影響がなかったことは、歴史が証明している。そもそも今現在TPPが発効していることを知っている日本人がどれだけいるのだろうか。それなのに当時は「TPP賛成」と言うだけで「日本の農業を崩壊させる思想の持ち主」というレッテルを貼られ、実際に自民党は東北地方を中心にいくつかの議席を失った。こういう経験がある以上は、仮に今の状況でコメの国境措置をなくす、とは政治的に言えないだろう。
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改訂版「地方」をマジメに考える