今は米を自由に作ったり売ったりすることができる。そして生産量が消費量より多ければ値段は下がり、生産者の採算が取れなくなって生産量が減る、というのが正常な市場原理である。

ところが日本の稲作農家の多くは、米の生産で利益を上げるのではなく、稲作をすること自体が目的になっていた。だから稲作経営が赤字でも米を生産する。多くは兼業農家で、工場勤務や公務員などによる定常的な安定兼業収入により生計を立てていた。米の値段がたとえ安くても、自分で販路を開拓して高く売ろうとせず、農協に出荷した。農協も自然と米が集まるので、値段を上げて集荷の努力をする必要はなかった。

今は農家の多くが高齢化しているが、農外の就労で得られる厚生年金があるので、やはり生活には困らない。小規模な営農を体力の持つ限り続けているのが現実である。

では米の国境措置をなくせば、米の輸入が増え、米の値段が下がるのだろうか。そんなに単純な話ではない。国境措置がなくなった所で、米の輸入は増えない、というのが私の予想である。

そもそも、何で輸入米が安いと思えるのだろうか。日本人の味覚にあう米は決して安くない。

よくカリフォルニア米なら日本人でも食べられると言われる。しかしカリフォルニア米は高くて、関税ゼロでも日本では売れなかったから輸入量が増えなかったのだ。

日本産コシヒカリはカリフォルニア米より安い

日本人は国内市場を開放したら、外国から日本に大量に食料が入ってくると思い込んでいるが、どうして外国から見て今の日本がそんなにおいしい市場だと思えるのだろうか。特に食料品に関しては日本人は口うるさく、それに対応するよりは、自国内か中国に売る方が商売としておいしい、と考える方が正しいのだ。

米に関しても、カリフォルニアは降水量が少なく生産に限界があるので、日本向けの米を作るより、アメリカ国内で売る方が儲かるのだ。たまたま昨年はカリフォルニア米の値段が下がり、日本の米が高くなったから、今ならカリフォルニア米が日本に入ってくる、というだけで、その状態が永続的に続くとは決して言えない。