父母は誰なのか? 明かされる血縁と残る論争

 DNA分析は、ツタンカーメンの家族関係についても新たな情報をもたらした。先の2010年の研究では、彼の父親は王家の谷の墓KV55で見つかった匿名のミイラ、母親は同じく王家の谷の墓KV35で発見された「若い方の淑女(The Younger Lady)」と呼ばれる匿名のミイラである可能性が示唆された。そして、この「若い方の淑女」は、KV55のミイラ(多くの研究者が宗教改革を行ったファラオ・アクエンアテンと見ている)の実の姉妹である可能性が高いという。つまり、ツタンカーメンはアクエンアテンとその姉妹の間に生まれた子供かもしれないのだ。

“マラリアと近親婚”の影?ツタンカーメンの死因に新たな光 ― DNA分析が示す「短命王」の真実
(画像=若い方の淑女(KV35から採掘されたミイラの横顔) 画像は「Wikipedia」より、『TOCANA』より 引用)

 しかし、この結論にも異論がある。フランスのエジプト学者マルク・ガボルデ氏は、2022年の講演で、ツタンカーメンの母親はアクエンアテンの正妃であり、絶世の美女として名高いネフェルティティであると主張した。彼は、DNA鑑定で見られた遺伝的な近さについて、「必ずしも兄妹であることを意味するわけではない」と指摘。3世代にわたる「いとこ婚」が繰り返された場合でも、兄妹間と同程度の遺伝的類似性が見られる可能性があると説明した。

「ツタンカーメンはアクエンアテンとネフェルティティの息子であり、アクエンアテンとネフェルティティはいとこ同士だったと私は信じている」とガボルデ氏は述べている。これに対し、元のDNA研究を率いたハワス氏は、ガボルデ氏の説はDNA分析の結果と矛盾し、それを裏付ける他の証拠もない、と反論している。

“マラリアと近親婚”の影?ツタンカーメンの死因に新たな光 ― DNA分析が示す「短命王」の真実
(画像=ネフェルティティの胸像 Philip Pikart – 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, リンクによる、『TOCANA』より 引用)