黄金のマスクで知られる古代エジプトの少年王、ツタンカーメン。わずか18歳でこの世を去った彼の死因は、1922年にほぼ無傷の墓が発見されて以来、100年以上にわたって大きな謎とされてきた。病死か、事故か、あるいは暗殺か――。様々な憶測が飛び交う中、近年のDNA分析技術が、その謎に迫る新たな光を当てている。

DNAが語る真実:マラリアと遺伝的疾患の複合的影響

 ツタンカーメンのミイラから採取されたDNAを分析した結果、彼がマラリアに感染していたことを示す遺伝的な証拠が見つかった。マラリアは蚊が媒介する感染症で、現代では治療可能だが、約3300年前の当時はしばしば死に至る病だった。「ツタンカーメン展」のゼネラルマネージャーであるティム・バティ氏は、「検査結果は、ツタンカーメンがマラリアに感染しており、それが彼の死因となった可能性を示しています」と語る。さらに、彼の祖父母とされるファラオ・アメンホテプ3世とその妃ティイのミイラからもマラリアの痕跡が見つかっており、王家全体がこの病に苦しんでいた可能性がうかがえる。

 しかし、マラリアだけが直接的な死因とは断定できない。別のDNA分析では、ツタンカーメンが近親婚によって生まれた可能性が高いことが示唆されているのだ。2010年にアメリカ医師会雑誌(JAMA)に発表された研究(エジプト考古学の権威ザヒ・ハワス氏らが主導)では、11体のミイラのDNAを分析した結果、ツタンカーメンの両親は兄弟姉妹であった可能性が高いと結論付けられた。古代エジプトの王家では、王族の血筋を守るために近親婚がしばしば行われていたが、これは遺伝性疾患のリスクを高める。

 実際にツタンカーメンのミイラには、足の骨の希少な病気である「第2ケーラー病」や、左足の壊死の痕跡が見つかっている。彼の墓から多数の杖が発見されていることも、彼が足に障害を抱え、歩行が困難だったことを裏付けている。研究チームは、「歩行障害とマラリア感染の複合的な影響」が、ツタンカーメンの最も可能性の高い死因であると報告している。遺伝的な弱さに加え、マラリアという致命的な病が、若き王の命を奪ったのかもしれない。