以来、「粒子は界面張力を下げ、液滴を安定化させる」という図式がエマルジョンの“教科書的常識”になりました。
これにより、食品加工から化粧品の開発までさまざまな分野が恩恵を受けてきたのです。
そしてこの現象は熱力学の法則によって支配されていることから、ある意味で「粒子を加える=分離しにくくなる」は定式のように思われるようになりました。
ところが最近、磁性をもつ粒子――つまり“磁石”の性質を備えた微粒子――を界面に使うと、どうやら話はそう単純ではないらしい、という指摘が出てきました。
いわゆる「粒子同士がピタッと吸着する」という従来のイメージに加えて、磁性粒子特有の「相手との向きや距離によって引き合い方が変わる」という性質が、新たな界面現象をもたらす可能性があるのです。
実際、外部の磁場をかければ粒子を自在に動かせるため、エマルジョンや液滴の形をコントロールする技術は着目されていました。
しかし一般には、「粒子が吸着して界面を補強する=界面張力を下げる」という流れを覆すほどの劇的な変化は観測されていませんでした。
そこで今回研究者たちは、「強磁性粒子が油と水の界面に作るユニークなネットワーク構造が、従来のエマルジョン理論をくつがえすほどの界面張力の変化を引き起こし、壊しても形が元に戻るような液体を生み出すのかどうか」を徹底的に実験で確かめることにしました。
もしこれが達成できれば「粒子を加える=分離しにくくなる」という常識を打ち破ることが可能になります。
振ってもすぐ分離して壺の形に戻る液体の秘密
