かつてオーストラリアの一部地域では、腐敗したクジラの死骸に人が潜り込むという、信じがたい“健康法”が存在した。目的は慢性的なリウマチ(関節痛)の緩和であり、その治療法は一部で熱烈に支持されていたという――。

強烈な悪臭の中で始まった奇妙な「療法」

 巨大なクジラの死体が海岸に打ち上げられると、その腐敗臭は数キロ先にまで届き、鳥やハエすら近づかないほどの凄まじさだという。だが1890年代のオーストラリア・ニューサウスウェールズ州、トゥーフォールド湾では、その“忌まわしい死骸”が一部の人々にとって癒しの源とされていた。

 ある新聞記事によれば、ある日リウマチに苦しんでいた男性が、既に切り開かれたクジラの死骸を見つけ、酒に酔っていた勢いも手伝って中に潜り込んだという。2時間以上もその中に留まった彼は、外に出ると痛みが消え、見違えるほど元気になっていたというのだ。

 この逸話は真偽不明であるが、事実として記録に残るのは、その後この“クジラ温熱療法”が一部で定着し、観光も兼ねた療養目的で多くの人々が訪れるようになったという事実である。