AIの進化と人間の「知能劣化」

 世界中の専門家たちが声を揃えて語るのは、人工知能(AI)がいずれ人間の知能と肩を並べ、やがては超えていくという未来像である。中でもノーベル賞受賞者でありGoogle DeepMindのCEOを務めるデミス・ハサビス氏は、AIが5〜10年以内に人間の知性に並ぶと予測している。

 しかし、ハーバード大学の理論物理学者アヴィ・ローブ教授はこの予測に対して、ある皮肉な視点を提示している。すなわち、AIの進化が加速しているからではなく、「人間の知能が急速に衰えている」ために、AIとの交差点が早まっているというのだ。

 例えるなら、筋トレをやめたアスリートが筋肉を失うように、知的労働をAIに委ねた人間の脳も“使われなくなった筋肉”のように衰退していく。便利さの代償として、思考力・分析力・集中力といった人間の基礎的な認知能力が失われつつあるのである。