スペースXとボーイングの違い
スペースXは開発に成功して、ボーイングがうまくいかない理由とは何か。
「第一の理由としては、ボーイングは複雑なサプライチェーンを基に成り立つ典型的な重厚長大な大企業であり、スペースXのようなスタートアップ企業で小回りのきく垂直統合型の企業に比べ、効率が良くないという点が上げられます。また、スペースXが失敗を恐れない文化を持ち、トライ・アンド・エラーでとにかくスピード重視で前へ進むのに比べ、ボーイングは失敗を前提とせず時間をかけて開発手順を踏むという旧来のアプローチであることが、開発遅延と予算超過を生んだともいえます。
加えて、もともとボーイングは家族主義的な気風に満ちた技術者集団であったにもかかわらず、1990年代から企業風土を利益至上主義に改悪し、技術者を軽視する方向に変節したことも要因としてあげられます。この結果、多くの熟練した技術者の退職を招き、開発能力の低下を招いたのです。そして、皮肉なことに、これら退職した技術者の多くは、スペースXやブルーオリジンに移籍し、そこで大きな成果を上げています」(橋本氏)
DOGEがNASAに影響を与える可能性があるのか。
「もともと民主党支持者だったマスク氏は2022年に共和党支持に転じ、日本円で約183億円にも上る献金を行うなど、2度目のトランプ大統領誕生に多大な貢献をしました。その論功行賞ともいえる見返りとして、トランプ大統領はマスク氏の提唱に沿うかたちでDOGEを新設し、そのトップにマスク氏を任命しました。その目的は、政府機関の歳出と人員の無駄を排し、すなわちリストラを行い、民間向けには規制緩和を進めることにあるといわれています。NASAがDOGEの監査の対象となることは、NASAも認めていて、つい最近の報道では、すでに4億2000万ドル(約630億円)分の契約打ち切りによる歳出カットがなされているとのことです。
加えて、トランプ政権は、新たなNASAの長官にスペースXの民間向けクルードラゴンの顧客であり、民間人として初めて宇宙船外活動に成功した実業家のジャレッド・アイザックマン氏を指名しました。アイザックマン氏はマスク氏と気脈を通じる仲であり、議会の承認で決まれば、マスク氏のNASAへの影響力はより大きくなるでしょう。
マスク氏がNASAに対して大なたを振るった場合に危惧されるデメリットの一つは、安全性への悪影響です。そもそも有人宇宙開発にはリスクが多く、過去にアポロ計画で3名、スペースシャトルの2回の事故では14名の宇宙飛行士が命を失っています。スペースX流の失敗を恐れない文化がNASAに持ち込まれた場合、さらなる宇宙飛行士の犠牲につながらないとは限らないのです」