この研究は、単に「音楽が好きか嫌いか」という二分法ではとらえきれない、“音楽の楽しさ”の真髄に迫ったと言えそうです。

何よりも大きな発見は、音程やリズムを感じ取る力や、報酬系全般への敏感さだけでは説明できない“音楽特有の報酬感受性”が、私たちのDNAと密接につながっているらしい、という点です。

これは「音感がないから音楽を楽しめない」「もともと喜びを感じやすい人だけが音楽に酔いしれる」という固定観念とは異なる見方を提案しています。

実際、音楽的能力はそこまで高くなくても、ある曲に心底ハマってしまう人もいれば、演奏が上手でも“鳥肌が立つような感動”はあまり味わったことがないという人がいるのは、この別の“遺伝的ルート”が作用しているからかもしれません。

さらに面白いのは、音楽を“楽しむ”といっても、感情が揺さぶられるタイプもいれば、リズムに合わせて体を動かしたり、人と一緒に聴くことで一体感を得たりするタイプもいます。

これら複数の要素が、それぞれ微妙に異なる遺伝的影響を受けているという示唆は、音楽の多面性を改めて浮き彫りにしました。

ある人にとっては「仲間とのカラオケが最高の幸せ」でも、別の人にとっては「お気に入りの曲を静かな場所で聴くひととき」こそ至福――この違いが、単なる趣味嗜好だけでなく、遺伝子レベルで異なっている可能性があるのです。

もちろん、“音楽の楽しさ”がすべて生まれつきで決まるわけではありません。

双子研究では約半分以上が遺伝の影響を受けていると推定されましたが、残りの部分は個人が育ってきた環境やその後の経験によって生み出されます。

たとえば、幼い頃に音楽に触れる機会が多ければ、大人になってから音楽に対する関心や楽しみがより強まるかもしれません。

あるいは、友人とライブに通う習慣が始まったことで、一気に音楽の魅力に開眼するケースもあるでしょう。

要するに、私たちが音楽をどれだけ楽しめるかは、遺伝と環境が絶妙に混ざり合って形成されるのです。