こうした違いを探求するにあたって、神経科学の研究者たちはまず脳の仕組みに注目しました。
脳内には、嬉しいことや快感を得たときに活性化する「報酬系」と呼ばれるネットワークがあります。
実験で、感動的な曲を聴いている人の脳をスキャンすると、この報酬系が光り輝くように活発になることが分かりました。
心が震えるような音楽体験をした瞬間、私たちの脳は“ご褒美のシャワー”を全身に浴びせているのです。
ただし、この“ご褒美のシャワー”の強さには個人差があり、中には「曲を聴いてもほとんど何も感じない」という人がいます。
ある意味、そこには“音楽的無快感症”という不思議な現象が存在し、“気持ちいい”と思うかどうかは音を知覚する力以上の何かに左右されているようなのです。
ここで浮かび上がる問いは、「音楽による快感の感じやすさは遺伝子が関係しているのだろうか」ということ。
たとえばリズム感や音感に関しては、双子を対象とした研究によって部分的に遺伝の影響が示唆されてきました。
しかし、演奏技術や音程の正確さは測りやすい一方で、「聴くことで得られる純粋な楽しさ」はどう数値化し、どう比較すればいいのかという難題がありました。
まるで空気の香りを誰かに“数値化して伝える”ようなもので、個人の感情の動きは非常に扱いづらいのです。
そんな中、比較的新しく開発された「Barcelona Music Reward Questionnaire (BMRQ)」という質問票が、音楽から得られる喜びを多面的に把握する道を開きました。
これは、音楽を聴いたときの感情の高ぶりや、気分をコントロールする働き、体を動かす楽しさ、さらに社会的なつながりの感覚などを細かく測定できるツールです。
たとえ楽器を持っていない人でも、このBMRQを使えば「どれだけ音楽に価値を感じているか」「どういう部分に魅力を覚えるか」といったポイントを定量的に示すことができます。