米国のバイデン前大統領が米製長距離ミサイルの使用を許可したのは昨年11月になってからだ。翌月、長距離射程の米地対地ミサイル「ATACMS」がロシア南部ロストフ州タガンログの軍用飛行場を攻撃した。
長距離兵器を巡って政治駆け引きが続く一方で、古典的な手法で敵に一撃を与える事件が発生した。 12月17日朝、ロシア軍の放射線・化学・生物学防護部隊のトップ、イーゴリ・キリロフ中将が集合住宅から出てきたところで、路上に置かれていた電動キックボードに仕掛けられた爆弾が爆発し、死亡した。同中将は、ウクライナの戦場で化学兵器の使用を指示したとして、西側諸国から非難されていた。
ウクライナ側は中将を「正当な標的」だとしている。
ウクライナ戦争は前線にいる兵士は別として、多くの人にとってはテレビやスマートフォンの画面で見る「バーチャル戦争」だった。しかし、キリロフ中将の暗殺現場近くに住む人にとって、もはやバーチャルではなくなった。
「ニュースで読んでいる分には遠くのことのように感じるが、自分の隣で起きるとまったく違って恐ろしい」と近隣に住む女性が語る(BBCニュース、12月17日)。
多数の戦士、あるいは市民を殺害するのではなく、日常生活の空間にいるたった一人の要人を暗殺することで市民社会に大きな恐怖心を抱かせ、敵国に政治圧力をかけることができるのである。
同様の恐怖心を抱かせる事件が昨年9月、中東で発生している。レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの戦闘員らが所有するポケベルが一斉に爆発して3000人以上が死傷。イスラエルのネタニヤフ首相がこの作戦にゴーサインを出したことを認めている。日常の生活圏の中に戦争の熾烈さが忍び込み、人々を震撼させた。
露によるドローン攻撃の実験台となるヘルソン
ウクライナ南部ヘルソンは2022年3月初旬にロシア占領下におかれた最初の主要都市だ。8カ月後に解放されたが、今やロシアによるドローン攻撃の実験台となっているという。