実際、気温が上がれば微生物の分解活動が活発化し、長い年月をかけて蓄えられた泥炭の有機物が一気に分解され、CO₂として大気へ飛び出してしまうリスクは否定できません。
ところが今回の研究で示唆されたのは、たとえ1℃程度の温度上昇であっても、“微細藻類の光合成が想像以上に強まる可能性がある”という事実です。
微細藻類が勢いを増してCO₂を吸い込み続けるなら、泥炭地が思いのほかしぶとく炭素を抱え込み、“炭素放出を抑える力”を持ち続けるかもしれない——そう考えられるようになってきたのです。
もちろん、夏になれば土壌が乾燥したり、逆に雨が多すぎて光合成に不利な環境になるなど、藻類にとって好条件ばかりが揃うわけではありません。
しかしそれでもなお、「小さな藻類の働きをこれまで以上に真剣に考慮すべきだ」という声が高まっています。
興味深いのは、その“微細藻類の炭素固定”によって生まれた有機物が、バクテリアや原生動物など他の微生物の栄養源となる一方で、土壌内の養分バランスをととのえ、過度な炭素放出を抑えるような正の効果も生む可能性がある、という点です。
つまり、光合成という“取り込み”と分解という“放出”が絶妙にせめぎ合う泥炭地のなかで、たった数度の温度変化や土壌の湿り具合が、炭素収支を大きく左右する鍵となっているのです。
今回の成果は、温暖化下の炭素循環を考えるモデルに新たな光を当てると期待されています。
従来のモデルでは「泥炭地は気候変動の被害者のように炭素を失ってしまう」という点が強調されがちでしたが、微細藻類による積極的なCO₂固定が加われば「状況によっては炭素の吸収源になりうる」というシナリオがいっそうはっきりと見えてくるからです。
さらに、コケ類や高等植物を中心とした従来型の保全策だけではなく、“微生物の多様性やバランスをどう守り、どう育てるか”が長期的な炭素蓄積のカギになる、という新しい視点も浮上してきました。