実際、このグループの生殖孔に着目した研究は、従来の形態学的な推測に加えて分子生物学的なデータを組み合わせることで、肛門進化の起源に迫る新たな切り口として注目されています。

そして研究者たちは、このゼナコエロモルファのゴノポア形成を徹底解析することで、「肛門はいかにして誕生したのか」という古くて新しい問題を解き明かそうとしているのです。

肛門の起源は精子放出口だった

肛門は「精子を放出する穴」から進化した可能性がある
肛門は「精子を放出する穴」から進化した可能性がある / この図は動物の消化管がどのように進化していったのか、その大きな転換点を直感的に示しています。 図の左側には、クラゲなどの刺胞動物が描かれており、これらの生物は「腸」、つまり口だけを持ち、同じ開口部から食物を取り入れ、また排出しているシンプルな消化管を有しています。 一方、図の右側には、魚や哺乳類などの左右相称動物(ネフロゾア)が示され、彼らは口と肛門という2つの開口部を持つ「貫通した消化管」を備えていることがわかります。 そしてその中間に位置するのが、ゼナコエロモルファという生物群で、彼らは口はあるものの、腸の状態に加えて雄性生殖孔(ゴノポア)を持っています。/Credit:Carmen Andriko et al . bioRxiv (2025)

ゼナコエロモルファのゴノポア(雄性生殖孔:精子の出口)が肛門の起源と深く結びついているかもしれない――。

この大胆なアイデアを確かめるため、研究チームはまず「ゴノポアの周辺でどんな遺伝子が、どんなタイミングで動いているのか」をくまなく探りました。

方法はシンプルに言えば「観察と染色」です。

彼らはミリ単位よりもさらに小さいゼナコエロモルファの体を、まるで精密な地図を描くように染色し、カラフルな蛍光を放つプローブを使って、重要な遺伝子の動きを可視化しました。

この作業は想像以上に根気のいるもので、まず“主役”となる生物自体が小さく、入手も難しいというハードルがあります。