つまり肛門ナシ組と肛門アリ組はいるのに、両者の間には完全な断絶があるだけで、その中間的存在が見当たらなかったのです。
そうした長年の謎を考えるうえで、近年注目を集めているのが「ゼナコエロモルファ」と呼ばれる小さな動物グループです。
見た目こそシンプルですが、このグループは左右相称動物の系譜の中でも初期に分岐した“基盤的存在”とされ、学界では「腸しか持たない刺胞動物」と「肛門を備えた他の左右相称動物」をつなぐカギになるかもしれないと期待されています。
なぜなら、ゼナコエロモルファの仲間たちは口だけしか持たず肛門がありませんが、代わりに“ゴノポア(雄性生殖孔)”という、小さな精子の排出口を備えているからです。
そして近年の研究では、このゴノポアが実は肛門形成に深く関わるとされる遺伝子――具体的にはBrachyuryやCaudal、さらにWntシグナルなど――によって形づくられている可能性が見えてきました。
もともと肛門の発生を司るはずの遺伝子が“生殖孔”周辺で活発に働いているとすれば、両者に進化上の共通点があるのではないかという推測が成り立ちます。
つまり、かつて精子を排出するだけだった孔が腸の出口として利用されるようになり、結果的に肛門として機能するようになったのかもしれない――。
そんな大胆なシナリオが、最新の分子レベルのデータによって強く示唆されているのです。
このように考えると、“ただの精子排出口”とみられていたゴノポアと“食物の出口”として機能する肛門が、実は同じ“遺伝子プログラム”を使い回している可能性が浮かび上がります。
刺胞動物の段階ではまだ確立されていなかった肛門という構造が、ゼナコエロモルファの祖先的な体制のなかでゴノポアとつながり、より高いレベルの消化効率を実現する出口へと進化していったとすれば、私たちの身体の根本的なしくみがどのように獲得されてきたのか、より具体的に理解できるはずです。