原子スケールではない、もっと大きな周期ができるわけです。

これは、ふだん0.24ナノメートルほどの距離しかない原子の並びが、何十ナノメートルもの広い間隔をもつ格子になったように見えるということです。

間隔が大きくなれば、それだけ弱い磁場(数テスラ)でも“蝶の模様”が出やすくなる、という考え方です。

そうすると、今まで「数千テスラが必要」と言われていたものが、現実的な磁場で実現できるかもしれない――こうして、ずっと夢物語に近かったホフスタッターの蝶が、実際に観察できるチャンスが見えてきました。

幻の量子蝶が今ここに──理論だけだった存在の“捕獲”

幻の量子蝶が今ここに──理論だけだった存在の“捕獲”
幻の量子蝶が今ここに──理論だけだった存在の“捕獲” / MITおよびプリンストン大学の科学者チームは、最先端の実験技術を駆使して、新しい種類の量子物質中の電子エネルギーを精密に測定しました。 その結果、電子が磁場と周期的な格子構造の両方の影響を受けると、エネルギー状態が雪の結晶やシダ、海岸線に見られるような自己反復パターン(フラクタルパターン)を描くことが明らかになりました。 このフラクタルパターンは、「ホフスタッターの蝶」として知られ、蝶の羽のように複雑で美しい模様がエネルギースペクトル上に現れるため、この名前が付けられました。 フラクタルとは、どこまで拡大しても同じような模様が繰り返される性質を持つ形であり、自然界の様々な現象に見られる共通の特徴です。 量子の世界では、電子が周期的な構造と磁場の二重の影響下に置かれると、そのエネルギーが複数の階層に分かれて、細かいスケールから大きなスケールまで同じパターンが繰り返されるのです。 従来、ホフスタッターの蝶は理論上で予測されるのみで、実際の物質中で直接観察されることはなかったため、多くの研究者がその実現を夢見ていました。 今回の新たな実験では、特殊な「ねじれた二層グラフェン」を用いることで、わずか数テスラ程度の磁場でもこの複雑なフラクタル構造を実際に捉えることに成功し、初めてその存在が確認されました。 この発見は、量子物質の新たな側面を直感的に示すとともに、今後の物性物理の進展や革新的な電子デバイスの開発に大きな影響を与える可能性があります。/Credit:Quantum fractal patterns visualized