がん治療は、抗がん剤や免疫療法の進展により大きく進歩してきました。

しかし、がん細胞の多様性や薬剤耐性など、依然として解決が難しい課題も残されています。

こうした課題に対し、患者ごとに最適な治療法をシミュレーションできる「デジタル双子 (デジタルツイン) 」が注目を集めています。

この技術は、個々の患者の体質やがんの特徴をもとに仮想モデルを作成し、治療効果の向上と副作用の軽減を目指した新たなアプローチです。

この記事では、抗がん剤治療の基本からデジタルツインが、がん治療にもたらす可能性まで、がん治療の現状と未来をお伝えします。

目次

  • 抗がん剤治療のメカニズム
  • 抗がん剤治療の問題点
  • 抗がん剤治療におけるデジタルツインの活用

抗がん剤治療のメカニズム

がん細胞は遺伝子の変異により増殖が止まらなくなる
がん細胞は遺伝子の変異により増殖が止まらなくなる / Credit:Canva

がん細胞は、通常の細胞とは異なり、無限に増殖を続ける特徴を持っています。

通常、体の細胞は一定回数の分裂を経てアポトーシス(細胞の自然死)により取り除かれますが、がん細胞はこの制御を逃れ、体内で急速に増えてしまいます。

この異常な増殖は、細胞の遺伝子に生じる変異が原因で、特にがんを促進する『がん遺伝子』や、抑える働きを持つ『がん抑制遺伝子』による制御が失われているため、増殖が止まらなくなるのです。

抗がん剤は、この無秩序な増殖を抑えるための薬です。

がん細胞に対して多様な方法で攻撃を仕掛ける抗がん剤には、DNAを直接攻撃して分裂を妨げる「アルキル化剤」、エネルギー供給を断つ「代謝拮抗薬」、細胞分裂の速度を落とす「抗腫瘍抗生物質」、分裂の足場を崩す「植物アルカロイド」など、さまざまなタイプがあります。

こうした抗がん剤を組み合わせることで、がん細胞の逃げ道を塞ぎ、治療効果を最大限に引き出すことが可能です。

さらに近年では、がん細胞の特定の分子や遺伝子異常をターゲットにした分子標的療法や、患者の免疫機能を利用した免疫療法が登場し、がん治療の選択肢が一層広がっています。