量子力学は、誕生から100年を超えてなお私たちの物理観を根本から揺さぶり続ける学問です。

電子や光子といった極小の世界で起こる「もつれ」や「確率論的ふるまい」は、古典的な物理の常識をはるかに超える現象として、世界中の研究者たちを魅了してきました。

しかし、そんな量子力学にも「到達できる上限」と「超えられない境界」があるとしたらどうでしょうか。

フランスのパリ=サクレー大学(UPSaclay)で行われた研究によって、量子力学が実現しうる統計パターンの“端”とも言えるポイントがほぼすべて洗い出され、量子力学の非常識さの限界値のようなものが明らかになったのです。

これは、一見抽象的に思える話題ですが、量子コンピュータや量子暗号といった先端技術にも深い影響を与える可能性を秘めています。

果たして「量子の限界」とはどんな姿をしているのか、そしてそれを知ることは私たちに何をもたらすのでしょうか。

研究内容の詳細は『Nature Physics』にて発表されました。

目次

  • 量子もつれが覆せる“常識”の限界はあるのか?
  • 量子力学の非常識さの限界値を特定
  • 暴かれた量子の壁

量子もつれが覆せる“常識”の限界はあるのか?

量子力学の「非常識さの限界」がみえてきた―――最小シナリオで見えた新たな境界
量子力学の「非常識さの限界」がみえてきた―――最小シナリオで見えた新たな境界 / Credit:Canva

量子力学は、私たちの「常識」を大きく覆す不思議な理論です。

1930年代にアインシュタインやポドルスキー、ローゼンらが「量子力学は本当に完璧な理論なのだろうか?」と問いかけたことで、離れた粒子同士があたかも一体化したかのように振る舞う“量子もつれ”という現象が広く注目されました。

ただし、これが超光速で情報をやり取りしているわけではありませんが、実際に実験すると離れた場所の測定結果が驚くほど強い相関を示すため、多くの研究者がその原理を理解しようと奔走してきたのです。

ノーベル物理学賞「量子もつれ」をわかりやすく解説