健康管理に関する課題

 さらに約10カ月におよぶ航海期間中の職場環境では、健康管理も懸念される課題である。病気・ケガにはどう対処しているのだろうか。

 前出「船員の健康確保の現状について」は「船員は船員以外と比べて、疾病の発生率、肥満者やメタボリックシンドロームの割合が高い等、 健康リスクが高い状態にある。陸上と比較してどの年代でも船員の疾病発生率が高い」と指摘している。さらに水産庁の発表によると、漁業での労働災害発生率は陸上の全産業平均の約5倍にも及んでいる。

 船内で発生する病気やケガの治療には、遠洋漁業の船舶には、船員法82条で乗船が義務付けられている衛生管理者が担当する。衛生管理者の要件は「労働安全衛生法に規定する衛生管理者の資格を有し、船舶に乗り組み2年以上船内の衛生管理に関する業務に従事した経験を有する者」。衛生管理者は筆記試験(労働生理、船内衛生、食品衛生、疾病予防、薬物など)と実技試験(救急処置、看護法)に合格して取得できるが、船内で実施できる治療・処置には限界がある。まして漁船に乗船する衛生管理者は、医師・歯科医師・看護師などの医療専門職ではない。

 したがって重篤な病気やケガに対しては、最寄りの港に緊急寄港をして、医療機関に搬送する段取りを取る。あるいは管区の海上保安部に連絡を入れ、医師・看護師が乗った巡視船やヘリコプターに乗せて治療を行う「洋上救急」という制度もあるが、「航海中は全てがサバイバルでありその点では遠洋漁師の生きる力は逞しい」(馬上氏)