パワハラ問題の現状

 漁業会社にパワハラ問題の現状認識を尋ねてみたところ、下記の回答を得られた。

「当社では大きな問題は発生していないが、海上で乗組員間の問題が発生した際は、双方への聞き取りを行い、漁労長を仲介して問題の改善に向け、対処したいと考えている。また帰港後に直接、双方と面談を行い、解決に至っていない場合は対応策を講じる」

 この漁業会社はパワハラ対策に次のように取り組んでいる。

「ベテラン乗組員には若手乗組員に積極的な声掛けをするとともに言葉使いなどの注意をお願いしている。また若手、ベテランを問わずにLINEで情報交換をして、悩み事があれば打ち明けてもらっている。今後は、出航前にベテラン乗組員を中心としたパワハラ防止に関する勉強会行うことを検討している」

 もうひとつ、離職が多い背景には、船内では絶対的な権限を持つ漁労長が、会社にとってアンタッチャブルな存在であることも挙げられるという。

「遠洋漁業の漁労長は70代という船も多く、後任の不在を背景に毎年会社が拝み倒して乗ってもらっていることもあるので、そうした場合、漁獲(=売り上げ)を左右する漁労長に対して、漁業会社の社長も意見を言えない関係にある。新人の乗組員について『どうして、こんな奴を乗せるんだ!』と文句を言われても反論できず、その乗組員は辞めていくという悪循環が続いていると思う」

 この悪循環は馬上氏にとって看過できるものではない。以前から漁業の働き方改革やパワハラ防止対策の必要性を言及してきたことから、ここ数年は講習会の依頼があり、自ら漁村に出向き漁業者に向けパワハラ防止講習会を行うことが増えた。