こうしたイーロン・マスクの発言や行動に対し、ドイツのショルツ首相は、「本当にうんざりする。EU域内の民主主義を阻害している」と痛烈に批判し、ドイツ国内では「無知で傲慢な大金持ち」などと大きな反発を招いた。

ドイツに蔓延するファシズムという病

以前からドイツ国内では極右テロに係る最大の脅威とされる「自己過激化した若者」がインターネット上のプラットフォーム等で極右思想を共有しつつ、緩やかに連携していると指摘されていた。

実際、17年2月には反イスラム教徒感情の扇動を企図し、シリア人の犯行を装って政治家やユダヤ人活動家への攻撃を計画したドイツ軍人が逮捕された。20年4月にはドイツ軍特殊部隊(KSK)隊員の自宅から武器、爆発物等が発見されたことを受け、カレンバウアー国防相(当時)は同年7月、KSKの第2歩兵中隊の解体を発表した。

21年6月にはヘッセン州警察や機動隊等に属する計49人の現役警察官が、チャットグループで極右主義的な内容を共有していたとして捜査を受けた結果、フランクフルト警察特殊部隊(SEK)の解体が決定された。22年12月には政府転覆を図ったとして、極右勢力「ライヒスビュルガー(帝国の住民)」運動の関係者など25人が逮捕された。連邦議会議事堂を襲撃し、政権を奪取する計画だった。

また、今回の選挙においては、ロシアによるとされる「50万人の兵士が徴兵される」「ドイツが新たな協定で最大190万人のケニア人労働者を受け入れる」などのフェイクニュースが拡散された。「相手社会に潜在する矛盾や不満を暴露し、その矛盾や不満を偽情報や誤情報などの手段を用いて拡大して、世論を操作して社会を分断に追い込む」という意図があるとされる。

欧州の中核を占めるドイツの右傾化は英国など欧州全体に波及する可能性が高く、民主主義国にとって大きな脅威となるだろう。

藤谷 昌敏 1954(昭和29)年、北海道生まれ。学習院大学法学部法学科、北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科修士課程卒、知識科学修士、MOT。法務省公安調査庁入庁(北朝鮮、中国、ロシア、国際テロ、サイバーテロ部門歴任)。同庁金沢公安調査事務所長で退官。現在、JFSS政策提言委員、経済安全保障マネジメント支援機構上席研究員、合同会社OFFICE TOYA代表、TOYA未来情報研究所代表、金沢工業大学客員教授(危機管理論)。主要著書(共著)に『第3世代のサービスイノベーション』(社会評論社)、論文に「我が国に対するインテリジェンス活動にどう対応するのか」(本誌『季報』Vol.78-83に連載)がある。