「ゲール・クレーターには数百万年、あるいはそれ以上の長期間にわたって液体の水が存在していた証拠があります。
つまり、火星のこのクレーター湖のような環境では、生命を形づくる化学反応が進行するのに十分な時間があったと考えられるのです」
そこで研究チームは今回、生命の体を形作るのに欠かせないタンパク質を構成するアミノ酸の痕跡を探すため、新たにカンバーランド試料を調査しました。
カンバーランド試料はまだ地球には持ち帰れていないので、キュリオシティに搭載されている「SAM(Sample Analysis at Mars)」という分析装置を用い、オーブンで試料を加熱することで放出される分子を測定しています。
するとアミノ酸の証拠は見つからなかったものの、代わりに、火星で見つかった最大の有機化合物が発見されたのです。
これは何を意味するのでしょうか?
史上最大の有機分子は何を意味する?
これ以前、火星で確認されていた有機分子は、炭素数が5以下の極めて小さいものばかりでした。
ところが、キュリオシティがカンバーランド試料を新たに調べた結果、炭素原子が10〜12個も連なる長鎖の有機分子が検出されたのです。
それらは「デカン(炭素10個)」「ウンデカン(炭素11個)」「ドデカン(炭素12個)」でした。
研究者らはこれらの有機分子について、試料中に保存されていた脂肪酸の断片と考えています。
脂肪酸は、地球上では生命の化学的構成要素の一つとされる有機分子です。
生物は脂肪酸を生成して細胞膜を形成したり、さまざまな生理機能を果たしたりしています。
つまりは火星上でも生命を形作る化学反応が起こり得ていたことを示しているのです。
しかし一方で、研究者らは「脂肪酸は生物がいなくても、例えば熱水噴出孔での水と鉱物の相互作用など、さまざまな非生物的プロセスによって引き起こされる化学反応を通じて生成されることもあるため、これが直ちに生命の痕跡であるとはいえない」と注意しています。
