基本法の改正でウクライナへの軍事支援の継続、国防軍の近代化とともに、リセッションにある国民経済の再建、鉄道、道路といった基本的インフラの整備への道が切り開かれたことで、経済界、産業界では概ね歓迎されている。次期政権を担当するCDU/CSUとSPDにとっても政権運営にとって巨額の財源を確保することは不可欠だった。

ところで、巨額の債務を抱える財政政策に対して、反対の声がないわけではない。右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)のクルパラ共同党首は18日の連邦議会で、次期首相の有力候補者メルツCDU党首に対し、選挙前には財政の規律を強調し、健全財政を主張していたが、選挙後は巨額の財政負債を要求しているとして、「貴方は国民の政治への信頼を大きく傷つけた」と糾弾。左翼党、自由民主党(FDP)も同様に、財政パッケージの採択は「国家の健全な財政運営を破壊する」として、メルツ党首を非難した。

実際、CDU/CSUは選挙戦では社民党・緑の党・自由民主党(FDP)の3党連立政権の財政政策を批判し、健全な財政を要求してきた。そのCDU/CSUがここにきて巨額の財政赤字をもたらす基本法改正を提出したわけだ。明らかに、選挙戦での公約違反といわれても致し方がない。それに対し、メルツ党首は「われわれが批判してきたのは、ショルツ政権内の財政政策での対立を問題視してきたのだ」と説明しているが、説得力は乏しい。選挙前の主張とその後の政策は誰がみても180度異なっているからだ。

メメルツ党首は「緑の党」と交渉し、財政パッケージから「緑の党」が推進する環境保護政策へ財政支援することを約束。そのうえ、総選挙後の議席構成ではCDU/CSU,SPD、そして「緑の党」の3党を合わせても3分の2は難しいため、選挙前の連邦議会の最後の会期で財政パッケージを採決するという綱渡りをしている。