赤み、細かいブツブツ、水疱、そして耐え難いかゆみが伴う「湿疹」は、私たちにとって一般的な病気です。
特にアトピー性皮膚炎は、子供や十代の若者によく見られ、成人でも10人に1人が抱えています。
「長年、際限のないかゆみに悩まされてきた」という人も少なくないでしょう。
こうした「かゆみ」は、皮膚の炎症によって生じると考えられてきました。
しかし、アメリカのハーバード大学(Harvard University)医学部アイザック・M・チウ氏らの2023年の研究で、湿疹によるかゆみの原因が、身近に存在する菌「黄色ブドウ球菌(学名:Staphylococcus aureus)」だと報告されたのです。
皮膚の炎症がかゆみを引き起こすのではなく、黄色ブドウ球菌が単独でかゆみを引き起こしていた可能性が高いのです。
この世界初の発見の詳細は、2023年11月22日付の学術誌『Cell』に掲載されました。
目次
- 湿疹の「かゆみ」のメカニズムは解明されていなかった
- かゆみの原因は「黄色ブドウ球菌」だった
- 既存の「抗凝固薬」でマウスのかゆみを遮断することに成功
湿疹の「かゆみ」のメカニズムは解明されていなかった
「かゆみ」とは、皮膚を引っかきたくなるような不快な感覚です。
そして湿疹のかゆみは、しばしば悪循環を引き起こします。
炎症部位をかくことで、皮膚はさらに傷つき、腫れ上がったり、ひび割れたりするのです

しかし、かゆみ自体は、体を守る防衛反応の1つだと考えられてきました。
例えば皮膚に異物が付着した場合、私たちはかゆみを感じることで異常を察知し、異物を取り除くことができます。
だからこそ、湿疹によって皮膚が炎症を起こすと、「その炎症(皮膚の異常)に応じてかゆみが生じる」と考えることができます。
そしてこれまでの研究では、湿疹のかゆみの主な原因は、炎症を引き起こす免疫細胞や、免疫細胞が分泌する炎症性分子にあると推測されてきました。