その結果は驚くべきものでした。
90分間の坂道ウォーキングを行ったグループでは、平坦な道を歩いたグループに比べて血液中の乳酸が有意に増加し、この乳酸の増加に伴って、脳内でも乳酸濃度が上昇することが確認されたのです。
さらに重要な発見として、脳の海馬や大脳皮質では、乳酸の上昇と共にBDNFの発現量が増加していました。
BDNFは「脳の栄養剤」とも呼ばれ、記憶力や学習能力の向上、さらには神経細胞の保護や新生に関わる重要な物質です。
また研究チームは、直接血中に乳酸を注入する実験も実施しています。
その結果でも、血中の乳酸濃度の上昇がそのまま脳内乳酸の増加に繋がることが確認され、今回の結果をさらに裏付ける形となりました。
毎日のちょっとした工夫が脳を若返らせる鍵になる
激しい運動をせずとも、ゆっくり坂道を歩くだけで脳の健康に大きなプラス効果があるというのは、興味深い発見です。
この研究成果を私たちの日常生活に取り入れれば、ちょっとした工夫で脳の働きを今より良くできるかもしれません。
例えば、学校や職場へ向かう毎日の通勤・通学路で、あえて坂道のあるルートを選んで歩くだけでも、脳の学習能力が向上する可能性があります。
体が「ちょっと頑張ったよ」というサインを出せば、脳が「さあ、記憶や学習の準備ができた!」と反応してくれるかもしれないのです。
上り坂の先にある学校に通学している人は、知らない内に脳の働きを良くして勉強しているのかもしれません。

また短時間の運動でも、習慣として毎日続けることで、乳酸が脳内でBDNFの生成を促進し、結果として記憶力や集中力の向上に繋がる可能性があります。
激しいスポーツや運動が苦手な方や高齢の人は、散歩のコースに坂道を取り入れるだけで脳トレーニングになるかもしれません。
今回の研究は、日常生活に密着した形で脳の活性化を図る新しいアプローチを提示しており、今後の健康づくりや認知機能の維持・向上に大きな貢献をする可能性を秘めています。