しかし、不思議なのは「民主主義を支持する」と答える人が多数派であるにもかかわらず、なぜ有権者自身がこうしたリーダーに投票し続けてしまうのかという点です。

これまでは「政党への忠誠心」や「社会の二極化」によって投票行動が左右されると考えられてきましたが、最近の研究によれば、この説明だけではすべてをカバーできないことがわかってきました。

なかには、候補者が明らかに民主主義の原則を侵害しているように見えても、その行為を“支持政党ならば許容できる”とみなす有権者も少なくありません。

さらに興味深いのは、そもそも「民主主義」という言葉に対する理解が人々の間でばらついている可能性です。

多数決を至上の原則と考える人もいれば、社会秩序や強力なリーダーの存在こそが民主主義を機能させる鍵だと思う人もいます。

歴史をひもといてみると、1930年代のドイツでヒトラーが政権を獲得した過程も、当時の人々が極度の経済不安や政治的混乱から「頼れる強い指導者」を求めた結果でした。

議会制民主主義にかげりが見えはじめた状況下では、「リーダーが強力な権限を持つことがむしろ国を救う」と考える層が一定数存在し、その心理的土壌が後の独裁体制を許容してしまったのです。

こうした例は極端なケースかもしれませんが、民主主義を守るために不可欠とされるメディアの独立や司法の中立を、「多数が選んだ政府の正当な権限」と見なしてしまえば、徐々に権力集中が進んでも重大な問題とは認識されにくくなります。

実際、「独裁的なやり方」に思えても選挙で選ばれている以上“これも民主主義のあり方の一つ”と捉える人々がいれば、それがリーダーの権限強化に拍車をかける一因になるというわけです。

そこで今回の研究チームは、「有権者が抱く民主主義観の違い」が具体的にどの程度、投票行動やリーダー選好に影響を与えるのかを解明するため、大規模なアンケート調査と「候補者選択実験」を組み合わせた方法に踏み切りました。